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大阪地方裁判所 昭和31年(モ)398号 判決

債権者 真崎登 外五名

債務者 日本電信電話公社

主文

当裁判所が、当事者間の昭和三〇年(ヨ)第五号仮処分申請事件について昭和三十一年一月二十一日なした仮処分決定はこれを認可する。

訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

債権者ら訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決を求め、債務者訴訟代理人は「主文第一項記載仮処分を取消す、本件仮処分申請を却下する、訴訟費用は債権者らの負担とする」旨の判決並びに右取消の部分について仮執行の宣言を求めた。

第二、債権者らの申立理由

(一)  債権者らは、いずれも債務者大阪天満地区電話局の従業員である。即ち

(1)  債権者真崎登は、債務者施行の詮衡を経て、昭和二十七年六月十一日、債務者に臨時作業員として雇われ、債務者大阪天満地区電話局堀川分局線路課勤務を命ぜられ、その後債務者施行の職員採用試験を受けてこれに合格し、昭和二十九年四月一日、試用員に任用され、同局本町分局電力課勤務を命ぜられた。

(2)  債権者後藤修司は、債務者施行の職員採用試験に合格して、昭和二十八年九月三十日債務者に臨時作業員として雇われ、同局第二船場分局(後に本町分局と改称さる)監視員を命ぜられ、昭和二十九年五月一日試用員に任用され、同分局庶務課勤務を命ぜられた。

(3)  債権者村田恒夫は債務者施行の面接による簡単な考査を受けて、昭和二十八年六月十九日、債務者に臨時作業員として雇われ、同局土木課勤務を命ぜられ、その後債務者施行の職員採用試験に合格して、昭和二十九年四月一日試用員に任用され、引続き同課勤務を命ぜられた。

(4)  債権者浦西栄一は、債務者施行の面接による簡単な考査を受けて、昭和二十八年七月一日債務者に臨時作業員として雇われ、債務者大阪天王寺地区電話局南分局機械課勤務を命ぜられ、その後債務者施行の職員採用試験に合格して、昭和二十九年四月一日試用員に任用され、債務者大阪天満地区電話局船場分局試験課勤務を命ぜられた。

(5)  債権者番場達哉は、債務者施行の面接による簡単な考査を受けて、昭和二十八年十月一日債務者に臨時作業員として雇われ、同局堀川分局機械課勤務を命ぜられ、その後債務者施行の職員採用試験に合格して、昭和二十九年四月一日試用員に任用され、引続き同課勤務を命ぜられた。

(6)  債務者倉田泰子は、債務者施行の面接による簡単な考査を受けて、昭和二十八年七月、債務者に臨時作業員として雇われ、同分局線路課勤務を命ぜられ、その後債務者施行の職員採用試験に合格して、昭和二十九年四月一日試用員に任用され、同分局試験課勤務を命ぜられた。

(7)  債権者らは、いずれも債務者から臨時作業員と云う名称に拘らず、実質的には当初より、債務者の恒常的業務に従事することを目的として、欠員補充要員として、又定員化された二月を超える長期の常勤従業員として雇用されたものである。

(8)  債権者らが債務者から試用員に任用されたときの辞令書には「雇用期間は二月とする、但し雇用期間満了の日において何等の意思表示がなされない場合は同一条件の雇用が継続するものとする」と記載されていたが、右辞令面の記載に拘らず、債権者らは、債務者から、二月を超える期間の雇用を予定して試用員に任用されたものである。

(二)  債権者らの平均賃金は別紙第一目録記載のとおりである。

(三)  債務者は昭和二十九年七月三十一日債権者真崎登、同後藤修司、同村田恒夫に対して、いずれも債務者準職員就業規則(以下準職就規と略称する)第二十一条第三号(その職務に必要な適格性を欠くとき)に該当するものとして免職を言渡し、債権者浦西栄一、同番場達哉、同倉田泰子に対して、いずれも、業務の都合により昭和二十九年八月三十一日限り解雇する旨予告した。

(四)  債務者公社における従業員の種類と雇用の実態

(1)  従業員の名称

債務者公社では、その従業員(常時勤務し役員でない者)を職員、試用員、及び臨時作業員の三種に区別し、その内試用員と臨時作業員とは、これを準職員と称し、二月以内の期間を定めて雇用する建前をとつている。然し右のような区分は債務者公社の職制、就業規則、或は雇用の辞令などに書かれているだけであつて、債務者公社における業務運営の実際面では、右の用語が示すような区別は存しないし、殊に試用員と職員との間には何等の差異もない。

(2)  臨時作業員の種類

(イ) 採用の方法による分類

臨時作業員には試験を受けて採用される者と、そうでない者とがあり、試験には、「職員採用試験」とか「準職員採用試験」とか呼ばれるものもある。職員採用試験に合格して採用された者は近く試用員に任用されることを予定されているが、準職員採用試験に合格して採用された者は試用員に任用されることを予定されていない。試験を受けずに採用される者の中には文字どおり臨時の必要により雇用される者とそうでない者とがある。

(ロ) 債務者公社の経理上の操作に基く分類

債務者公社には「定員化された臨時作業員」とその他の臨時作業員とがあり「定員化された臨時作業員」とは、債務者公社が予算とにらみ合わせて設けた定員数に組入れられた臨時作業員であつて、この中には試用員に任用予定の臨時作業員は全員含まれ、その余の臨時作業員若干のものが含まれている。債務者近畿電気通信局管内では、昭和二十九年度末頃までは、右定員化された臨時作業員を、「賃金要員」又は〈賃〉と略称し、その他の臨時作業員を〈A〉(アルバイト要員の意味)と呼んでいた。然し右区分は、主として債務者公社の経理操作の便宜に基くものであつて、勤務や雇用関係の実態とは必ずしも一致しない。

(ハ) 雇用目的(勤務内容)による分類

試験を受けないで雇用される臨時作業員の一部は文字どおり、臨時の必要により、極めて短い期間を定めて雇用されるけれども、大部分の臨時作業員は債務者公社の恒常的業務に従事するために雇用されており、雇用辞令には二月以内と期限を定められているが実質上は期間を定めない雇用であることを双方が諒解した上で採用される。

(3)  試用員の雇用関係

(イ) 試用員制度が生れた事情

債務者公社の職員に支給すべき給与は、日本電信電話公社法(昭和三十一年五月二十一日法律第一〇八号によつて改正される以前のものにして以下公社法と略称する)第七二条に、いわゆる給与総額の範囲内で賄われる建前になつているが、その範囲内では、債務者公社が、その企業を維持するために常時確保しなければならない最少限度の要員の給与すら賄うことが不可能な実情にあつたため、債務者公社は、その不足要員を試用員と称する従業員を以て充て、その給与は前記給与総額外である物件費から支出するという手段を採用するに至つた。

(ロ) 試用員の任用

新制高等学校またはこれと同等以上の学校の新卒業生で職員採用試験に合格し、年度始めに入社するものは初めから試用員として採用されるが、その他の者は一応臨時作業員の段階を経て試用員に任用される。即ち臨時作業員中その採用前に職員採用試験に合格した者、或はその余の臨時作業員でその在職中に職員採用試験に合格した者が、債務者公社の設けた試用員の定員の範囲内で試用員に任用されるのである。

(ハ) 試用員の勤務の実態

試用員は原則として二月の試用期間を経て債務者公社の称する職員に昇任する。然し試用員と職員とは債務者公社の職制或は就業規則等では区別されているが、勤務の実態においては両者を区別する規定なく、同じく債務者公社の定員に含まれ、勤務の内容、責任、待遇など全く同様に取扱われている。即ち、試用員に任用されると債務者公社の常時的、基幹的な各職種作業に配置され、職員と同様に債務者公社の共済組合に加入を許され、必要があれば、社宅も与えられ、年次有給休暇も付与され職員と同一の給与規程により給与の支給を受け、その他勤務時間(日直、宿直を含む)、休日、被服貸与等においても職員と全く同じ待遇を受け、その従事する職務の内容と責任においても職員との間に差異はなかつた。

(ニ) 試用員制度は違法である。

前記事情によつて生れた試用員であるから、その給与の支出費目は何であれ、実質上は試用員は債務者公社の職員である。若し試用員が公共企業体等労働関係法(昭和三十一年五月二十一日法律第一〇八号によつて改正される以前のものにして以下公労法と略称する)上の職員でなく、職員に任用するために試験的に雇用されたものであるなら、国家公務員の条件附任用と同様に変則的例外的雇用形態であるから、かかる制度の存在が許されるためには、これを許容する法律の存在することを要し、その運用が厳格に制限さるべきであることは当然にして国家公務員については、その任用の条件等につき国家公務員法の委任により人事院規則に厳格な規定が設けられているのに対し、公労法には、右の如き条件附採用制度を許していないし又右の如き試用員制度は、公労法が争議権を奪つた代償として保障した労働者の身分を、更に不利益に変更するものであるから、法律が明かに許した場合のほかはこれを設けることを禁止しているものと解しなければならず、従つて右の如き試用員制度は公労法等の強行法規に違反し禁止されている違法な制度であつて、試用員を職員と比較して不利益に取扱うべく規定した債務者公社の規則や雇用契約は、その部分に限り無効であるというべきである。

(五)  そこで、債務者がなした前記債権者らに対する免職及び解雇は、次の理由によつてそれぞれ無効である。

(1)  公労法第二条第二項の二か月以内の期間を定めて雇用される者とは、臨時の必要により、二か月以内の期間を限つて雇用される者を指称するのである。債務者公社の恒常的業務に従事させることを目的として、二か月を超える長期の雇用を予定して採用された者は、辞令面は二か月以内の雇用となつていても、債務者の職員であることは勿論、たとえ、臨時の必要による雇用の場合でも、その期間が二か月以上に亘る者も又職員とみなされるべきであつて、債務者に雇用された臨時作業員は、臨時雇用であることが明かにして、その雇用期間が二か月以内の場合を除き公労法公社法上の職員であるといわなければならない。よつて債権者らは、表面上の雇用形式に拘らず、臨時作業員に採用されると同時に公労法公社法上の職員たる身分を取得した者である。従つて債権者らの免職、解雇は公社法第三一条、債務者職員就業規則(以下職就規と略称する)第四五条に則つてなされなければならないのに、これに準拠しなかつたものであるから債務者のなした債権者らに対する前記免職又は解雇はいずれも無効である。

(2)  仮りに右主張が理由なしとするも、公労法上、職員と非職員との区別は争議行為の禁止と労働者の身分保障とに関係するだけで予算とは関係がないことであるから、たとえ試用員の給与が国会の承認した給与総額の枠以外から支出されていても、試用員が公労法上の職員たるに妨げなく、又債権者らは試用員に任用される以前七月乃至二十二月の間、臨時作業員として勤務し、その勤務成績と職員採用試験の結果とによつて十二分に職員としての能力を実証しており、試用員任用の辞令面上の記載によつても、その但書によつて雇用期間は、当事者の意思表示を要せず当然更新されるのであるから、試用員としての雇用期間が二か月以上になることは当初から予定されていたものであると云うことができ、試用員が臨時雇用の従業員でないこと及びその勤務の実態が債務者公社の職員と全く同じであることは既述のとおりである。又前述のとおり、試用員はその任用と同時に共済組合に加入を許されることは、その雇用期間が少くとも一年以上を予定されていたものであり(当時の債務者公社の共済組合に関する規則によれば、組合員たる期間一年未満の者は退職一時金の給付を受け得ないことになつていた。責任を平等に負担しながら、利益を平等に享受させられないような不合理なことはあり得ないから、共済組合に加入させられる者はすべて一年以上の雇用を予定されたものというべきである)、更に債権者らは前述の如く年次有給休暇を付与されていたもので、この事は疑もなく一年以上の雇用を予定されていたことを示しており、債権者らが試用員に任用された辞令に雇用期間を二か月とする旨記載されていても、右は債務者公社が、試用員を公労法上の職員ではないかの如く見せかけ、公労法その他労働関係法の不自由な規定の適用を回避し、債務者公社の都合によつて、いつでも正当の理由を要せず解雇し得るように偽装したものに過ぎなく、試用員はその名称に拘らず、一年以上の長期雇用を予定された債務者の常勤従業員であつて公労法上の職員であり、債権者らは、それぞれ、債務者より、その試用員に任用された時に公労法上の職員たる身分を取得したものである。しからば債権者らを免職、解雇しようとすれば、公社法第三一条、職就規第四五条を適用しなければならないのに、これによらなかつた本件免職、解雇は無効である。

(3)  仮りに右主張もまた理由がないとしても、公労法第二条第二項第一号は二か月以内の短期雇用の目的について明かに規定するところがないので、二か月以内の試用期間を定めた試験的雇用の適法性をここに求め、右二か月の期間は不変期間であると解する。又試用員制度が国家公務員の条件附採用制度と、その性質及び存在理由を同じくするならば、試用期間もまた右条件附採用期間と同じく更新を許さないものと解すべきは当然である。試用期間の更新を許すことは、それだけ身分保障のない期間を長くし、また債務者公社が、その主観的、恣意的判断に基いて、その権利を行使し、以て不当な人事管理又は労務管理にこれを濫用する危険があり、その結果、労働者の身分を保障する公労法の規定を空文に帰せしめる虞あり、職員の適格性を確認するための期間として二か月の試用期間は、任用時の選考によつて一応認定された適格性を更に確めるために補充的に設けられたもので、それ以上にその者の能力を適確に判定することが目的ではなく、又従業員の訓練期間でないこと勿論であるから二か月の期間が短きに失するということはできず、試用期間の更新は許されないものと解すべきである。而して試用員制度を必要とした事情(前記(四)(3)(イ)記載)、試用員の勤務の実態及び待遇(前記(四)(3)(ハ)記載)及び試用員は職員採用試験に合格し、殊に債権者らは臨時作業員として長く勤務し、その間優秀な勤務成績により債務者公社の職員としての能力と適格性を一応実証された上で任用されたものであることを考え併せれば、債権者ら試用員は、試用員に任用された時に職員たる地位を取得し、二月の試用期間内にその任用の当初に予見し得べかりし職員としての不適格性が証明されることを条件としてその地位を失う、即ち右不適格性の確証等特別な消極的条件の成就がない限り、その地位に変動を生ぜず、解除条件附で職員たる地位を取得したものと解すべきである。而して債権者らは、試用員任用後二か月間に右消極的条件の成就がなかつたのであるから、試用員に任用されたときから公労法上の職員たる地位を確定的に取得したものであるということができる。従つて債権者らに対する免職、解雇は、いずれも公社法第三一条、職就規第四五条によらねばならないのに、右規定に準処しなかつたのであるから、本件免職、解雇は、いずれも無効である。

(4)  仮りに右理由なしとするも、試用期間の更新の許されないことは右(3)において述べたとおりであり、試用員はその勤務の実態において、職員と同一であり又、職員採用試験に合格したものであることを併せ考えれば、二か月の試用期間内に職員としての適格性が実証されるか又はその不適格性が証明されないことを停止条件として、二か月の試用期間終了の翌日に公労法上の職員たる身分を取得したものと云うべく、債権者らは、いずれも右停止条件が成就したのであるから、債権者後藤修司は昭和二十九年七月一日から、その余の債権者は同年六月一日から公労法上職員たる身分を取得したもので、従つて債権者らに対する免職、解雇は、いずれも公社法第三一条、職就規第四五条によらねばならなかつたのに、これに準拠しなかつた本件免職、解雇はいずれも無効である。

(5)  仮りに右主張もまた理由がなく、債権者らは予算上の制約を受けて未だ公労法上の職員たる身分を取得していなかつたとするも、債権者ら試用員の勤務の内容、責任、待遇など勤務の実態においては前述((四)(3)(ハ)記載)のとおり、債務者公社の職員と全く同様であるから、予算と関係のない免職、解雇等については、その職員と同一に取扱われるべきであつて、債権者らに対する免職、解雇は、いずれも公社法第三一条、職就規第四五条によらねばならなかつたのに、右に依拠しなかつた本件免職、解雇は無効である。

(六)  仮りに債権者らが、債務者から免職又は解雇予告の意思表示を受けた昭和二十九年七月三十一日当時、公労法上の職員でなく、試用員であつたとするも、

(1)  債権者真崎登、同後藤修司、同村田恒夫に対する債務者の準職就規第二一条第三号に該当するものとしてなされた免職は、次の理由により正当の事由がないから解雇権の乱用であり、且つ、右債権者らに、次の(ロ)乃至(ハ)の行為ある故を以てなされたものであるから不当労働行為として無効である。

(イ) 右債権者らは、いずれも、債務者公社に一年前後も勤務し、その間、何ら適格性について指摘されず、又注意を受けたこともなく、職務に必要な適格性を欠いていない。尤も債権者村田修司は昭和二十九年七月中旬、債務者天満地区電話局北村課長から、同債権者の履歴書に昭和二十三年四月から昭和二十七年三月までの間の職歴が記載されていないことの注意を受け、これを記入したことはあつたが、右は昭和二十六年十一月、当時働いていた大阪屋工務所から同僚と同工場のものを持ち出して問題となつたことがあつた(起訴されず)ので不快な思出を避けるために書かなかつたまでのもので、当時問題にならず、同債権者は債務者公社に臨時作業員として雇用されて以来一日も欠勤せず、右職歴不記載の事実があつたからとて同債権者に職務に必要な適格性を欠いたことにはならない。

(ロ) 債権者真崎登は、

(a) 昭和二十九年四月債務者大阪天満地区電話局本町分局の労働組合結成のため、同分局電力課から準備委員に選任され、自来組合活動に従事し、

(b) 同年四月十五日開催された本町分局開局祝に際し、酒ジユース等の処分について不正の疑があつたので、その真相追求に当り、

(c) 同年六月十二日、立花庶務主任の監視員侮辱事件について交渉に当り、

(d) 同年七月二十一日頃から四日間夏季氷代要求のため交渉に当り、

(ハ) 債権者後藤修司は

(a) 昭和二十九年一月監視員の日給切下げに抗議し、

(b) 前記開局祝不正事件に関し債権者真崎登に協力し、

(c) 前記侮辱事件に抗議し、

(d) 同僚の橋本監視員が病気を理由に解雇されようとしたのを組合に報告し、

(e) 労務加配米盗難事件の責を監視員に負わせようとしたのに抗議し、

(ニ) 債権者村田恒夫は

昭和二十九年六月一日組合に加入し、組合活動に努力した。

(2)  債権者浦西栄一、同番場達哉、同倉田泰子に対する債務者の業務上の都合による解雇は次の理由により無効である。

(イ) 債権者浦西栄一の病状は昭和二十九年六月二十日安静度八度(普通勤務)、同年八月二十七日安静度七度(普通勤務に耐える)と診断された程度にして、

(ロ) 債権者番場達哉の病状は、解雇予告を受けたあとである昭和二十九年八月二日始めて、同年六月八日の検診の結果肺結核安静度四度と診断され、三日間の出勤停止の通知を受け、その後同年八月二十五日安静度六度(半日勤務)の通知を受けた程度にして、

(ハ) 債権者倉田泰子の病状は、昭和二十九年六月二十四日安静度六度(半日勤務)と診断されたが、同年十月十五日普通勤務に支障なしと診断された程度にして

(ニ) 右債権者らは、いずれも債務者公社に臨時作業員として雇用されて以来一年前後も健康体にあり、又いずれも長期の休養を要せず、若干の静養で勤務し得る程度の病状であることが認められ、又その発病は債務者公社における勤務過労に基くもので右債権者らに重大な過失はなかつたものであるから、右債権者らを病気を理由に解雇することは著しく信義則に反し解雇権の乱用である。

(七)  債務者主張の債権者らの免職事由に対する答弁

(1)  債権者真崎登に関する部分については、債務者主張の天満速報にその主張の如き記事が掲載されたことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。右天満速報の記事内容は正確であつた。

(2)  債権者後藤修司に関する部分については、同債権者が勤務時間中に所定の帽子を着用しないことが二回あつたこと、仮眠を許されている時間中に医務室で仮眠したことが一回あつたこと、及び身分証明書用の写真を提出しなかつたことはいずれも認めるが、その余の部分はすべて否認する。右写真を提出しなかつたのは已むを得ない事情があつたためである。

(3)  債権者村田恒夫に関する部分については同債権者の履歴書に債務者主張の如き職歴不記載の事実があつたこと及び右不記載の期間中債務者主張の事実が存在したことは認めるが、その余の部分は否認する。右不記載の事項は重要なものでなく、その不正行為も起訴猶予となつた程で軽微のものと思われる。同債権者は債務者に臨時作業員として雇用されて以来一年六か月の間一日の有給休暇すら取らない程極めて真面目に勤務していたから、右履歴書職歴不記載は当然に宥恕さるべきである。

(4)  仮りに右債権者三名に債務者主張の免職事由として述べる事実が存在したとしても、それらは余りにも軽微であつて懲戒処分の極刑たる免職には到底価しないものである。

(5)  債権者浦西栄一、同番場達哉、同倉田泰子に関する部分について、

(イ) 右債権者らが、いずれも債務者主張の時期に健康診断を受け、債権者らの健康状態がCと判定されたことは認めるがその余の事実は否認する。

(ロ) 右債権者らに対する解雇辞令には、その理由として、業務上の都合(準職就規第二一条第四号)を掲げているから、右解雇当時、債務者は、右債権者らを健康上の理由(準職就規第二一条第二号)で免職する意思を有していなかつたものである。

(ハ) 電健第一七号通達に基く免職は違法である。即ち右通達は新規採用の場合の健康基準を示したものであり、既に採用されている従業員を免職解雇する場合の基準たり得ないものであるのみならず、右通達は、債務者の職員課長がその権限において定めた内規に過ぎないものであるから、就業規則を労働者の不利益に変更する効力なく、右債権者三名に対し、右通達を適用して解雇したことは無効である。

(八)  債務者の無効行為の転換の主張に対する債権者の主張

無効行為の転換とは、特定の意思表示を含む法律事実が要件と効果とを異にする二種の法律行為のうち、当事者の企図した法律行為の要件を完全に具えていないために、その法律行為としては成立をも効果をも認めることができないが、たまたま他の法律行為としてはその要件を具えていると認められる場合に、現に具備する要件のみで成立する法律行為としての効果を認めようとするものである。債務者は試用員に対する免職の意思表示を、職員に対する免職の意思表示とみなすべきものと主張するのであり、両意思表示は免職と云う点において、その目的、内容、効果を同じくするから、その間において転換の問題が生ずる余地なきのみならず、公社法第三一条第三号、及び職就規第四五条第五号が準職就規第二一条第三号とほぼ同様な文言を以て規定されているけれども、債権者は、債務者らを、その職員でないものとして免職の意思表示をなし、債権者らの免職について職員組合が、債務者に団体交渉を申入れ、又苦情処理機関による解決を図らうとした際、債務者は、債権者らを職員でないとしてこれを議題とすることを拒否して来たのであるから、債権者らが免職された根拠規定と同様の文言が職就規等に存在していても、その内容は大いに相違しておるので、債権者らに対する免職の意思表示を、職員としての債権者らに対する免職の意思表示と認めることはできず、又債務者の右意思表示が、その従業員であつた債権者らとの間の雇用契約を解消しようとしてなされたものであることは認められるが、それは債権者らの地位に関する重大な錯誤に基いてなされたものであるため無効であり、右意思表示に無効行為転換理論を持込む余地のないものである。尚債権者浦西栄一、同番場達哉、同倉田泰子の三名に対する実質上の解雇理由は、胸部疾患のためと言うのであるから、仮りに、その疾病の程度が債務者主張のとおりであつたとしても、債務者は、右債権者らを職就規第四六条第一項第一号により休職を命ずべきであつて、同規則第四五条第一項第二号を適用すべきではないから右債権者三名に対しては無効行為の転換と云う問題は起り得ないものである。

(九)  そこで債権者らは債務者を被告として昭和三十一年七月三十一日当裁判所に、債務者が昭和二十九年七月三十一日債権者真崎登、同後藤修司、同村田恒夫に対してなした免職、同年八月三十一日債権者浦西栄一、同番場達哉、同倉田泰子に対してなした解雇の無効確認を求めると共に、債務者は債権者真崎登、同後藤修司、同村田恒夫に対し昭和二十九年八月一日以降、債権者浦西栄一、同番場達哉、同倉田泰子に対し、同年九月一日以降判決確定に至るまで別紙第一目録記載の金員の支払を求める訴を提起した。然しながら、右本案判決確定までの間被免職者、被解雇者として処遇されることは給与生活者である債権者らにとつて著しい損害を蒙る虞があるからこれを避けるために、債務者はその従業員に対し、毎月の給料をその月の二十四日に支払うことになつているので債権者らは昭和二十九年十二月二十九日当裁判所に対し、債務者は前記本案判決確定に至るまで債権者らを、それぞれその職員として取扱い、且つ債権者真崎登、同後藤修司、同村田恒夫に対しては昭和二十九年八月一日以降、債権者浦西栄一、同番場達哉、同倉田泰子に対しては同年九月一日以降毎月二十四日別紙第一目録記載の賃金を支払うべき旨の仮処分命令の申請(昭和三〇年(ヨ)第五号)をなし、昭和三十一年一月二十一日同裁判所は債権者村田恒夫が既に受領した金一二、八七五円を控除して右申請と同旨の仮処分決定をした。而して右仮処分決定は正当であり、維持するを相当とする。

第三、債務者の答弁並びに抗弁

(一)  債権者ら主張の申立理由(一)記載事実中、債権者真崎登の臨時作業員採用日、債権者らの合格した試験名、(7)の記載全部、及び(8)の記載中債権者ら主張の辞令書所載事項以外の部分はいずれも否認し、その余の部分は認める。債権者真崎登の臨時作業員採用日は昭和二十七年六月十日にして、債権者らが合格した試験は職員採用試験ではなくして、準職員(試用員)採用試験である。同(二)及び(三)の記載事実はすべて認める。同(四)記載事実中債権者ら試用員が概ね、職員の労働条件に準じて勤務させられていたこと、債権者ら試用員に職員と同様に年次有給休暇が与えられ、且つ債務者公社の共済組合に加入を許されていたこと、試用員が職員に比して身分保障において欠ける点のあること即ち比較的簡略な手段を以て免職され得ることになつていることはいずれも認めるがその余の事実は否認する。同(六)記載事実中、債権者村田恒夫の履歴書に昭和二十三年四月より昭和二十七年三月までの職歴が記載されていなかつたこと及び債権者浦西栄一、同番場達哉、同倉田泰子の各安静度が債権者ら主張のとおりであることは認めるが、その余の事実はすべて否認する。

(二)  債権者らを試用員に採用した当時の債務者の要員事情

昭和二十四年六月従来政府事業であつた電信電話事業は逓信省から電気通信省に移管され、その間に行政整理が実施され、次いで昭和二十七年八月一日債務者公社に引継がれたもので、債務者は一般行政機関と異り、国家に対し、多少の自主性を持つてはいるが、その資本金は全額政府の出資にかかり、予算は国会において議決され、会計は会計検査院の検査を受ける等国家による広汎な財政上の統制を受けており、この点私企業とは全く趣を異にし、職員給与の総額は厳重に債務者公社を拘束し、職員を採用することは予算の配分のない限り不可能である。右給与総額制が事実上実施されたのは、昭和二十八年度が最初にして、その際における給与総額算定上の基礎としての予算人員は、公社が現に雇用していた職員実在員より七二三二名も少く、その結果要員計画上困難な事態に直面し、職員の新規採用を差止めると共に、極力実在員の縮少を期した。然しながら債務者公社の事業は全国にまたがり、その要員の種類も多種多様であり、総体としては定員超過なるに拘らず、局所別、業種別には相当数の欠員が存在し、これらを超過部署から配置及び職種による転換によつて急速に調整補充することは住宅事情、労働情勢から困難であつた。そこで調整ができるまで、やむを得ず臨時に、一時補充するため臨時作業員が採用されたのである。而して将来の要員管理上、これら臨時作業員に対し職員登用の途を開き且つ新卒のフレツシユマンを採用すべく考案されたのが試用員制度にして、これらの者を職員採用を前提として試用員に採用し、なるべく職員に準じた処遇を与え、雇用期間を一応二か月間とし、その期間は原則として、更新しない建前であつたが、職員たるの能力の実証されるまで、試用員としての性格に反しない範囲内で更新し、又予算の配分があるまで、職員に任用をおくらせることは、やむを得なかつたことである。債権者らに対しその試用期間を更新したことは後述(四)のとおりあくまでも、債務者公社発足直後における特殊な要員事情の下において、やむを得ずとられた緊急措置の一にして、一方試用員に採用された従業員にとつて見れば、試用員に採用されることは、むしろ一種の優遇策と考えられていたので、ことさら不安定な地位において雇用するなどと云う意図は始めから全くなかつたものである。

(三)  試用制度について

試用員とは試用期間中の従業員であり、その期間中の選考によつて能率の悪い者或は不適格分子と判定されない限り、将来正規の従業員たる職員に採用され得る資格を有するものである。斯る試用員を設けるか否か、設ける場合如何なる取扱いのものにするかについては、公社法第二八条第一項、公労法第二条第二項第一号からする二か月以内の雇用期間の制約を除けば、その他に法律的制限はなく、むしろ公社法第二九条は試用員の存在を前提とし乃至は許容しているものであるということができる。そこで債務者公社が、その必要性に基き、公労法、公社法の範囲内において、試用の目的で二か月以内の期間を定めて雇用契約を締結することは自由にして、何等違法なものではない。債務者公社では二か月以内の期間を定めて雇用し(更新を妨げない)、その雇用期間内に行われる選考に合格した場合には職員に採用されるが、これに反し不合格となつた場合には、即時若くは一定の期間後にその職を失い若くは免職されることとしているもので、試用員が右選考によつて失職することは試用員制度の性格上当然のことであり、又試用員の地位が正規の従業員である職員に較べて、身分保障に欠ける点のあることも、その性質上已むを得ないところである。債権者らは、債務者公社の試用員制度は偽装のもので、当事者の意思は、始めから職員に任用されたものである旨述べているが、前記のとおり債権者らは、試用目的のために雇用されたもので、試用員の勤務の実態において職員のそれと若干類似するところがあつても、そのことによつて試用員の性格を失わしめるものではない。

(四)  試用期間の更新は違法ではない。

公労法第二条第二項第一号は二か月を超える期間を契約内容としながら非職員の雇用を許さないと云う趣旨にとどまり、その他法令、労働協約、就業規則等に更新を許さない定めはないのであるから、双方の合意により、試用期間の更新を不可とするものではない。二か月の試用期間を更新することが職員に比して比較的簡略な手続を以て免職され得る期間を長くする結果を来すことは勿論であるが、これは試用員の性格上、已むを得ないことである。而して、この期間の更新が許されることを奇貨として、債務者公社が不当な人事管理乃至労務管理に悪用した事例はない。一般の試用員について二か月の雇用期間を原則として更新しないのが好ましいことではあつたが、右二か月の期間は試用員の選考、職員への採否の手続の完了のためには短きに失する実情にあつたこと、国家公務員の条件附採用が六か月であること、給与総額制に伴う要員事情、一般私企業の試用期間の実情等を併せ考慮するときは、試用員の雇用期間の更新はむしろ当然であり又合理的である。特に債権者らを含む昭和二十九年四月一日に試用員に採用されたものについては、当時本町分局、御堂分局の開局のため要員事情が輻輳して任用面の事務が繁忙を極め、身元調査の完了にも長期間を要したため選考がおくれたもので、債務者公社の故意又は過失によつて、その採否をなさなかつたと云うのであればともかく、前記の如き理由により、試用員として採用された最初の二か月の雇用期間中に採否が決定されず、更新された頃の雇用期間中に職員への不採用、免職ということがなされたとしても、何ら非難さるべき事柄ではない。

(五)  職員の定義

債務者を規律する公社法上の職員とは、公労法第二条第二項第一号に規定するものをいうこと公社法第二八条の明記するところで、右公労法第二条第二項第一号には、債務者公社に常時勤務する者であつて役員及び二か月以内の期間を定めて雇用される者以外のものが職員であると定義している。債務者が公社法上国家事業に近い法的拘束を受けていることから考えれば、債務者における職員の任用も国家公務員の任用と同様に明確な行為としてなされることを必要とし、右の定義は極めて厳格に解さるべきで、何人も雇用期間が二か月以内と定められて任用された以上、如何なる目的で雇用されたかを問わず公社法上の職員たりえない。債権者らは、いずれも二か月の期間を定めて雇用されたものであるから、右の趣旨からして当然、債務者の職員に属しないものである。試用員に任用後更新の結果二か月を経過しても、債務者の明確なる意思表示なくして職員たることはあり得ないことである。

(六)  債権者らの雇用期間が少くとも一年以上を予定しているとの債権者の主張は事実に反する。年次有給休暇は準職就規第一五条により引き続き六か月を超えて勤務した臨時作業員に与えられるもので、試用員については年次有給休暇の規定はないが、臨時作業員のときをも通算して引き続き雇用されていた期間によつて事実上、これを与えられているに過ぎず、元来年次有給休暇なるものは、労基法上、引き続き勤務したことによつて与えられるものであつて、雇用期間とは関係のないことである。又、試用員に対し共済組合員の資格が付与された事情は、元来債務者公社に勤務する従業員で国家公務員共済組合の組合員となることのできる者は職員に限られ、それ以外の従業員即ち試用員及び臨時作業員は国家公務員共済組合法第一条第二号にいう臨時に使用される者に該当し、右組合に加入する資格がないと云う解釈をとつていたところ、昭和二十八年八月十四日日雇労働者健康保険法が公布、同年十一月一日より実施され、臨時に使用される者であつて(イ)日日雇い入れられる者及び(ロ)二か月以内の期間を定めて使用される者らは右健康保険の被保険者となつた。そうなると臨時作業員も試用員も右健康保険法の適用を受けることになるのであるが、債務者公社としては、試用員は二か月以内の期間を定めて使用される者ではあるけれども、特別な者を除き将来職員に採用され得るのであるから、日雇ではなく、従つて国家公務員共済組合法第一条第二号にいう臨時に使用される者には該当しないとの解釈をとるに至り、昭和二十八年十月二十二日附電厚第二〇〇五号の通達(疏甲第一九号)が出され、その時より試用員に対しても職員と同様共済組合への加入資格が付与されることとなつたもので、右は国家公務員共済組合法上試用員を臨時に使用される者として取扱わないことになつたに過ぎないからである。

(七)  債権者らが債務者に臨時作業員として採用されたときから職員の地位を取得した旨の債権者らの主張について、

債務者公社の臨時作業員とは、債務者公社の臨時的業務に従事させるため一日を単位として雇用されるもので、業務の都合により、時として相当の期間に亘る場合もないではないが、あくまでも臨時的のものである。臨時作業員の従事する業務が、たとえ恒常的業務であつても、その雇用目的が、債務者公社において、職員に相当数の欠員や休職者等のある場合に、配置転換又は他部門の職員の差し繰り等によつても、尚業務の運行に支障があるとき、その支障をきり抜けるために雇用されるものは、あくまで臨時的従業員である。臨時作業員は臨時の日雇であることが契約上明示されているものである。債務者公社の性格上その明確な意思表示なくして、右臨時作業員が職員となることはあり得ないことである。

(八)  叙上の理由により、債権者らは債務者公社の職員ではなく、依然として、その試用員であつたのであるから、その免職、解雇は、公社法第三一条、職就規第四五条によるべきでなく、準職就規に準拠すべきで、それに基いてなされた債務者の債権者らに対する免職、解雇は有効である。

(九)  債権者らが職員に採用されず、免職解雇された事由

(1)  債権者真崎登の事由

(イ) 勤務に積極性を欠き、十五分位遅刻して出勤することが多かつた。(準職就規第三条、職就規第五条第一項、準職就規第二三条の二、職就規第四九条第一八号該当)。

(ロ) 勤務時間中無断で職場を離れることが屡々あり、上司から注意を受けてもそれを改めなかつた。(該当条項(イ)に同じ)。

(ハ) 昭和二十九年五月七日頃、全電通労組は突然、天満連報なる組合機関紙に「余んまりやり方がエゲツナイ」と題し、本町分局開局に際し、部外者から受けた寄贈品、委託販売をなした残品の処理に関し、同分局幹部に不正行為があるかの如き記事を掲載し、債務者と右組合との間に物議をかもしたが右記事は、真実、その事実がないのにも拘らず、債権者真崎登において、右組合大阪天満支部へ通報したことから惹起されたものであり、右債権者の所為は、故意に同分局幹部を誹謗し、一般職員との離間を策そうとした悪質な業務妨害行為である。

(ニ) 右各所為により、債権者真崎登は、職務に必要な適格性を欠き、債務者の職員として採用することは不適当と認められたので、債務者は、右債権者に対し、その雇用期間満了日たる昭和二十九年七月三十一日、準職就規第二一条第三号により免職する旨の意思表示をしたものである。

(2)  債権者後藤修司の事由

(イ) 家庭の事情を理由として出勤時刻に遅刻することが多かつた。

(ロ) 服務上の諸規律を遵守しなかつた。即ち受附において監視中は、絶えず人の出入に注意しなければならないのに、下を向いたり新聞書籍を読んだりし、又局内巡回中は制服制帽を着用しなければならないのに、帽子を着用せず或は上着を脱いだままで巡回していた。右の態度服装について監視長浜田定吉から再三注意したのに、債権者後藤はこれを改めなかつた。

(ハ) 勤務時間中に執務場所を離れ、他の従業員と雑談していることが屡々あつた。

(ニ) 監視員の睡眠場所は地階小使室に指定されているに拘らず、これを無視して六階の医務室のベツトで睡眠することが多かつた。

(ホ) 再三の督促にも拘らず、準職就規第三条職就規第一六条に定める身分証明書用の写真を最後まで提出しなかつた。

(ヘ) 「試用員に採用されて身分も安定したのだから、これから後は仕事を適当に手を抜いてやるのだ」とか「監視員に就職したのは公社に入るための手段で将来適当な機会に他の職種にかわるつもりだ」等同僚達に云つており、監視員の職務を誠実に行つてゆく気持を全然持つていなかつた。

(ト) 右各所為により、債権者後藤修司は、職務に必要な適格性を欠き、債務者の職員として採用することは不適当と認められたので、債務者は右債権者に対し、その雇用期間は未だ満了していなかつたけれども、職員へ不採用の方針が決定したので昭和二十九年七月三十一日、準職就規第二一条第三号により免職の意思表示をしたのである。

(3)  債権者村田恒夫の事由

(イ) 勤務に熱意と積極性を欠いていた。

(a) 土木課の現場作業はマンホールの排水等体の汚れる仕事が多いのであるが、債権者村田は、何かと理由をつけて、この種作業を回避し同僚にそれを押附けていた。

(b) 真面目に作業している同僚に対し、「余り働いたら損だ」と云つて仕事を適当に手を抜いてやる様に勧めていた。

(c) 仕事の速度が遅く、共同作業の場合債権者村田恒夫のためしばしば作業の進行に支障を生じた。又単独の作業の場合には監督の目の届かない時に仕事を怠けていた。

(ロ) 前歴詐称

債権者村田が試用員採用試験の際提出した履歴書には昭和二十三年四月から昭和二十七年五月までの職歴が記載されていなかつたので、右債権者にたゞしたところ、右債権者は、その間は、父親が自宅で経営していたうどん屋の手伝をしていたと答えた。然るにこの点を調査した結果、昭和二十三年四月より昭和二十五年四月までは松本機械製作所に、昭和二十五年五月より昭和二十七年三月までは大阪屋工作所に各勤務していたこと、しかも右大阪屋工作所に勤務していた昭和二十六年十一月頃、米軍のスクラツプを持ち出して運搬中警察官に逮捕され、その事件は検察庁で起訴猶予となつたが、それが原因で右大阪屋工作所を退職したことが判明した。

(ハ) 債権者村田恒夫には、前記の如く、その勤務に熱意と積極性を欠き、その試用期間中における観察考査の結果、職務に必要な適格性を欠き、債務者の職員として採用することは適当と認められていなかつた上に、前記の如く前歴詐称があり、元来右の如き前歴詐称は、労使間の信義に著しく反する行為であるのみならず、職場の規律乃至秩序を乱すものであり、しかもそれが刊事犯罪と関連のあるものであつたため、債権者村田恒夫の職場が器具機材を多く取扱う部門である関係上、前記のような過去の行跡は将来に多大の危懼の念を生ぜしめるに足るものであるから、債務者は、右債権者に対し、その雇用期間の満了日である昭和二十九年七月三十一日、準職就規第二一条第三号によつて免職の意思表示をしたものである

(4)  債権者浦西栄一、同番場達哉、同倉田泰子の事由

右債権者らは、その試用期間中に実施された電健第一七号通達に基く健康診断の結果(受診日は、債権者浦西栄一が昭和二十九年六月十五日、同番場達哉及び同倉田泰子が同年同月二十四日)肺結核に罹患していることが判明し、C級(身体障害の程度が重く、職務に堪えられないか又は職員及び公衆の安全衛生に影響を及ぼすおそれのあるもの)と判定され、C級と判定されたものは当然職員採用の対象から除外されるので、準職就規第二一条第二号により免職すべきところ、健康さえ回復すれば、職員採用の可能性もあつたので、本人等の事情を参酌し、再度の身体検査を受け得る機会を残して、特に債務者は右債権者らに対し同年七月三十一日に、同年八月三十一日附を以て解雇する旨予告したものである。

(十)  債権者らの解雇権の乱用及び不当労働行為の主張について

債権者らは公労法上の職員でなく、同法第四条によつて債務者公社の職員組合に加入したりその組合活動に従事できないのであるから、債権者らがなす右組合活動は正当行為ではなく、右職員組合以外の労働組合は近畿電気通信局管内では結成されたことはないので、債権者らの所為を、その組合活動であると云うことのできないことは勿論であるから、たとえ債権者らに、その主張の所為があつたとしても、債務者の債権者らに対する免職を不当労働行為とすることはできず又債権者らを職員に採用せず、免職或は解雇したのは、前述のとおり已むを得ない事情によるものであるから、これらを以て解雇権の乱用によるものであるということはできない。

(十一)  無効行為転換の主張

仮りに債権者らが、免職或は解雇予告の意思表示を受けた当時、公社法、公労法上の職員であつたとしても、無効行為転換の法理により、債権者真崎登、同後藤修司及び同村田恒夫に対する免職は、同債権者らが、職務に必要な適格性を欠いでいたことを理由とするものであり、右免職の根拠とした準職就規第二一条第三号は、職員に適用すべき公社法第三一条第三号、職就規第四五条第五号と全く同一であるから、職員としても免職を免れない。債権者浦西栄一、同番場達哉及び同倉田泰子の病気安静度は、いずれも職務の遂行に支障を来す程度のものであるから、公社法第三四条第二項職就規第四条第二項の義務遂行に欠けるところがあり、公社法第三一条第二号、職就規第四五条第二号の免職事由に該当し職員としても免職を免れない。よつて債務者の債権者らが試用員であるとしてなした免職、解雇が形式上瑕疵があつて無効であるとしても、免職、解雇は要式行為ではないから、職員としての債権者らに対する意思表示として有効と解すべきである。

第四、疏明関係〈省略〉

理由

一、当事者間に争のない事実

債権者真崎登が、債務者施行の詮衡試験を経て、昭和二十七年六月(日附につき右債権者は十一日と主張しし、債務者は十日と主張する)債務者より臨時作業員として雇用され、債務者大阪天満地区電話局堀川分局線路課勤務を命ぜられ、その後試験(右債権者は職員採用試験と主張し、債務者は試用員採用試験と主張する)に合格して、昭和二十九年四月一日試用員に任用され、同局本町分局電力課勤務を命ぜられたこと、

債権者後藤修司が債務者施行の試験(右債権者は職員採用試験と主張し、債務者は試用員採用試験と主張する)に合格して、昭和二十八年九月三十日債務者に臨時作業員として雇用され、同局第二船場分局(後に本町分局と改称さる)監視員を命ぜられ、昭和二十九年五月一日試用員に任用され、同分局庶務課勤務を命ぜられたこと、

債権者村田恒夫が昭和二十八年六月十九日債務者に臨時作業員として雇用され、同局土木課勤務を命ぜられ、その後債務者施行の試験(右債権者は職員採用試験と主張し、債務者は試用員採用試験と主張する)に合格して、昭和二十九年四月一日試用員に任用され、引き続き同課勤務を命ぜられたこと、

債権者浦西栄一が昭和二十八年七月一日債務者に臨時作業員として雇用され、債務者大阪天王寺地区電話局南分局機械課勤務を命ぜられ、その後債務者施行の試験(右債権者は職員採用試験と主張し、債務者は試用員採用試験と主張する)に合格して、昭和二十九年四月一日試用員に任用され、債務者大阪天満地区電話局船場分局試験課勤務を命ぜられたこと、

債権者番場達哉が昭和二十八年十月一日債務者に臨時作業員として雇用され、同局堀川分局機械課勤務を命ぜられ、その後、債務者施行の試験(右債権者は職員採用試験と主張し、債務者は試用員採用試験と主張するる)に合格して、昭和二十九年四月一日試用員に任用され、引き続き同課勤務を命ぜられたこと、

債権者倉田泰子が昭和二十八年七月、債務者に臨時作業員として雇用され、同分局線路課勤務を命ぜられ、その後債務者施行の試験(右債権者は職員採用試験と主張し、債務者は試用員採用試験と主張する)に合格して、昭和二十九年四月一日試用員に任用され、同分局試験課勤務を命ぜられたこと、

債権者らが試用員に任用されたときの辞令書に、いずれも「雇用期間は二月とする、但し雇用期間満了の日において何等の意思表示がなされない場合は同一条件の雇用が継続するものとする」と記載されていたこと、

債権者ら試用員が概ね債務者公社の職員(昭和三十一年五月二十一日改正前の公労法第二条第二項及び昭和三十一年五月二十一日改正前の公社法第二八条第一項に云うところの者以下同じ)の労働条件に準じて勤務させられていたこと、殊に債権者ら試用員に職員と同様に年次有給休暇が与えられ、且つ債務者公社の共済組合に加入を許されていたこと、債務者公社の職制上試用員が、職員に比して身分保障において欠ける点があり即ち比較的簡略な手続で免職され得ることになつていたこと、

債務者が昭和二十九年七月三十一日債権者真崎登、同後藤修司、及び同村田恒夫に対して、いずれも準職就規第二一条第三号(その職務に必要な適格性を欠くとき)に該当するものとして免職するとの意思表示をなし、同日債権者浦西栄一、同番場達哉及び同倉田泰子に対して、いずれも、業務の都合により昭和二十九年八月三十一日限り解雇する旨予告したこと、

以上の各事実については、いずれも当事者間に争のないところである。

二、そこで債権者らが、債務者から右免職或は解雇予告の意思表示を受けた当時、債務者公社の職員であつたか否かについて検討する。

(1)  試用員任用の実態

昭和二十九年四、五月頃即ち債権者らが試用員に任用された頃の債務者公社における試用員任用の実情について考察するに、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証(丸尾音治郎作成の調書)、同第二十五号証(内田正男作成陳述書)、同第三十二号証(職員及び準職員採用規程)、証人家城蔵の供述によつて真正に成立したものと認められる乙第十八号証(老本庄一作成顛末書)、証人草川昭(第一回)、同家城蔵の各証言、成立に争のない乙第三十四号証の一(被審人丸尾音治郎の審尋調書)、同第三十四号証の二(被審人遠藤正介の審尋調書)の各一部、成立に争のない甲第九号証(職就規)を綜合すれば、債務者公社が発足したのは昭和二十七年八月一日からで、同時に試用員制度が採用され、公社法第二九条に、「職員の任用はその者の受験成績、勤務成績又はその他の能力の実証に基いて行う」と規定され、職就規第四二条には、「職員は原則として試用員から選考によつて採用する」と定められたので、債務者公社は、原則として、その職員希望者を、公労法第二条第二項の関係上、雇用期間を二か月以内と定めて先づ試用員に任用することにし、その任用前に、職員採用試験の名目の下に学科試験と面接及び身体検査をなし、職員に任用の際は試用員当時の勤務成績、能力その他職員としての適格性の有無を判断するのみで、改めて試験をすることなく、只試用員任用後三か月を経過して職員に任用するものだけが改めて身体検査を受けることにしていたところ、債務者近畿電気通信局は、昭和二十九年四月一日、その本社から同年度近畿電気通信局管内の職員の定員数の指示を受け、これを基礎とし、退職等の減耗予想人員を勘案し且つ定員増加予想数を考慮に入れて向う六ケ月間の要員需給計画を樹立し、職員の欠員並びに増員の補充源として、同年三月の学校新卒業者及び債務者公社の臨時作業員中から、同年四月一日附で一三三八名、同年五月一日附で一九六名の試用員を任用した。そこで債務者としては、二か月の雇用期間を経過すれば、試用員を職員に任用する計画ではあつたけれども、右は毎月の要員計画に基くものでなく、半年毎の計画であつたため、計画に、くい違いを生じることは当然で、二か月の雇用期間を経過したとき、即時、全試用員が職員に任用されるとは誰も予想してはいなかつたのみならず、各地区電話局より各月末日の現在員報告が債務者近畿電気通信局に届くのは、大体その翌月十五日過ぎであつて、右通信局において、この報告に基いて各地区電話局に対し、試用員から職員に任用できる定数の指示を出すのは、翌月末頃になり、各地区電話局が、それに基いて、職員任用予定者の身許調査等を開始し、実際に採否の定まるのは、翌々月の中旬或は下旬となるのが例であつて、当時は、試用員で最初の二か月の雇用期間経過直後に、職員に任用された者は皆無で、二か月の雇用期間満了の翌日附で、職員任用の辞令が出されたものでも、それは、債務者公社が辞令書の日附を一、二か月遡らせたもので、昭和二十九年始め頃以降は、主として予算の関係から、試用員の雇用期間は更新するのが例となり、六か月乃至一か年位の間試用員として在職することは已むを得ないと考えられていた。元来債務者公社では、その発足当初から、公労法第二条第二項に云う二か月の雇用期間は、法律上当然更新し得るものと考え、その前提のもとに、訓練試用員の如きは、二か月の雇用期間を数回更新する予想の下に任用し、一般試用員についても、その二か月の雇用期間は原則として更新しない建前であつたけれども、右二か月の期間は、職員としての適格性判断のためにも短きに失する実状にあつた上に、前記の如き要員計画のくい違いから二か月の雇用期間を或程度更新することを予想し、試用員任用に際しては、当初から二か月の雇用期間の更新条項を含む雇用形態を採用するのを例としていたことを一応認定することができ、右認定に反する乙第三四号証の一、二の各一部は措信できず、その他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(2)  試用員の労働条件

債権者ら試用員と職員との労働条件が概ね同一であつたことは前記のとおり当事者間に争なく、右争のない事実に、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第十六号証の一ないし二十五、(試用員の現況報告書)、成立に争のない甲第二十四号証(被審人草川昭審尋調書)、同乙第十六号証の一、(職就規)、同乙第十六号証の二(準職就規)、同乙第三十四号証の一(被審人丸尾音治郎の審尋調書)、同乙第三十四号証の二(被審人遠藤正介の審尋調書)、証人片山甚市及び同草川昭(第一回)の各証言を綜合すれば、試用員の作業内容は職員のそれと全く同一であつて、共に債務者公社の恒常的業務に従事し、試用員と職員とは、共に同様な服務規準に服し、勤務時間も等しく、同様に責任ある夜間勤務や日直、宿直を命ぜられ、年次有給休暇、特別休暇、病気休暇も同様に与えられ、共に同一の債務者職員給与規定により給与を与えられ、退職手当、夏季手当も同様に支給され、且つ同様に被服の貸与を受けていたことが一応認められ、右認定に反する証人藤井義治(第一、二回)の証言は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はないい。

(3)  当裁判所の判断

前記(1)の認定事実よりすれば、債権者ら試用員は、その試用期間(雇用期間)内に行われる職員たるの適格性審査に合格した場合には職員に任用されることを前提として、債務者より、それぞれ試用員に任用されたもので、一時的な労働力の不足を補うために雇用される臨時傭的性格を持つものではないから、債権者ら試用員は公労法第二条第二項に云う常時勤務するものであるということができる。更に債権者らが債務者に試用員として雇用されたときの辞令書に「雇用期間を二月とする」としながらその但書において「雇用期間終了の日において、何等の意思表示がなされない場合は、同一条件の雇用が継続するものとする」と記載されておることは前記のとおり当事者間に争のない事実にして、右事実よりしても、その雇用期間の更新が予想されていたことが認められるし、右(2)の認定事実によれば、債権者らは、試用員に任用された当初の二か月を経過する直後に、職員に任用されるか或は不任用になるかについては確たる見透しなく、寧ろ、最初の二か月は当然更新され、二か月を超えて引き続き雇用されているときに、職員に任用されるか否かを決定されることを、試用員任用の当初から予想して、債務者から試用員に任用されたものであるし、前記(2)認定事実の如く、債務者の試用員に対する使用関係の実態が、その職員に対するそれと殆ど異らない状態にあることを考え併せれば、債務者と債権者らは、当初から二か月以上にわたつて雇用する意思を以て試用員雇用契約を締結したもので、即ち債権者らは、債務者より二か月を超える期間を定めてその試用員に任用された者であるということができ、右はすなわち公労法第二条第二項従つてまた公社法第二八条第一項にいう「役員および二か月以内の期間を定めて雇用される以外のもの」に該当する常勤者として同項にいう職員たるの身分を取得したものと解するのを相当とする。仮にそうでなくて試用員の任用は本来二か月を限つてしたものであるが、その期間は職員としての適格性判定のためには短期に失し、やむなく例外的に更新しなければならないような場合が多くなり、遂にその例外がむしろ原則となつたにすぎないものであつて、当初より二か月を超えることを予定したものではなかつたとする見地に立つて考えるに、元来公労法の右規定が二か月以内の期間を定めて雇用される者を職員より除外していること自体債務者公社の従業員に恒常原則的な「職員の外」臨時作業員や試用員など臨時例外的な従業員が存しうることを予定したものと解せられるのみならず、これら例外的従業員の制度を一般「職員」と区別して設けること自体は、企業経営権の範囲内のことに属し固よりこれを違法視するに当らないけれども、問題となるのは債務者が試用期間はこれを更新することができるとの解釈をとり、準職就規第二〇条第五号により試用員は雇用期間が満了すればその職を失うものとしまた試用員の辞令書にも前記但書更新条項を設け、債権者ら試用員全部につきこれらの規定条項を活用して契約を更新し、職員たるの適格性の有無の判定は更新により実質上延長せられた期間内になされればよく、それがなされるまではいつまでも、試用員たるの身分は事実上継続するもやむをえぬものとしている点である。公労法第二条第二項第四条第三項労調法第八条第三七条第三八条労基法第二一条第二号などの諸規定を彼此対照綜合して右の点を考えるに、なるほど公労法第二条第二項の試用員の雇用期間(試用期間)では職員たるの適格性の判定のため技術的困難の伴う場合のあろうことは一応認められるけれども、これをより長期に定めるときは一面それだけ公社法上の職員組合員の範囲を縮少し右組合の力を弱化し、且つまた試用期間の長期化は試用員の増大と本来公労法公社法の制約の下におかれていない試用員自体の団結権争議権の行使、更には社内における職員、試用員両組織の対立などの弊を生ずる虞があり、他面従業員を試用の名の下に長く不安定な浮動状態に縛りつけておくということが考えられないとはいえずかくては勤労保護の要請に背くことにもなり、労調法労基法の前記規定との調和も考えられた上右公労法上の期間が法定せられたものと解するのが相当であるから、右期間はいわば例外的常勤従業員の法認せられるぎりぎり一杯の期間であつて、これを超える試用制度を設けることは勿論のこと回避的法律技術を用いて試用期間が前後を通じ右期間を超えることとなるような更新制度もまたゆるさぬ趣旨と解するの外なく、してみれば前記試用員辞令但書の更新条項は、更新した結果前後を通じ二か月を超えることとなる場合は、強行法規に違反する労働契約条項であつて無効であること疑がない。只前記準職就規第二〇条第五号の規定については本来試用制度を認める以上かかる規定が設けられ二か月以内に適格性の審査を遂げ不適格な者のみこの規定の適用を受けるものとすること自体はこれを禁ずべきものではないであろうが、債権者らの場合にこれをみるに債務者は債権者らに対し二か月以内になすべき適格性の審査を怠り試用員雇用を更新したとしてそのまま引続き雇用を続けたものでこのような場合は右規定を専ら更新の具としてのみ活用したとみるの外なく明に違法であるとせねばならない。してみれば、試用員に対しては二か月内に適格性の審査をして判定を下さねばならないのであつて、それをしないで法律上許されない更新をしたとし事実上二か月を超えて雇用を継続した場合には、たとい当初より二か月以内を限つての雇用であつたとしても事実として二か月を超えたときに公労法第二条第二項の適用を受け職員となつたものと解すべく、債権者らが全部本件解雇または免職当時債務者公社の職員であつたことになることは毫も変りはないとせねばならない。右のように断定したとて、債権者らはいずれも、前記(1)において認定したように債務者施行の職員採用試験に合格しているのであるから公社法第二九条職就規第四一条に違反して職員に任用されたことにはならないし、債権者らが試用員を経過せずに職員に任用されたということになつても職就規第四二条は、例外を認めているから同条違反ともならず、又債権者浦西栄一、同番場達哉及び同倉田泰子が所謂試用員任用前に債務者主張の如く、たまたま身体検査を受けていなかつたとしても、職員任用予定者に対し身体検査をなすべく規定した電健第一七号(成立に争のない乙第十二号証)は、債務者公社の内規に過ぎず、既に職員に任用された以上、その任用前に身体検査を受けていなかつたとしても、その事だけで職員任用を無効ならしめるものではないと解せられるから、右債権者らを以て有効適法に任用された職員というに妨げない。

(4)  試用期間の更新が已むを得ない事由に基いたとの債務者の主張に対する判断

たとえ、債権者らの試用期間(雇用期間)の更新が債務者主張のとおり已むを得ない事由に基くものであつたにしても、債権者らは前記認定の如く、当初から、または試用員として採用されてから二か月後に公社法公労法上職員たるの身分を取得した事実を左右するものではない。

(5)  職員たるがためには、債務者の明確な意思表示を要する旨の債務者の主張に対する判断

勿論雇用関係に伴う権利義務内容を明確ならしめるために名実共に合致した表示を以て任用されることは望ましいことではあるけれども、債務者の附した呼称が絶対的な権威を持つものでない。すなわち債務者によつて職員に任命されたから債務者の職員たるの身分を有するのではなく、その身分は公社法公労法により定まるのでありその身分の有無は当然裁判所の判断に服するものであるからその余の試用員ないしは臨時作業員名下における被用者については別論として本件債権者らに関する限りは債務者において、試用員の名称の下に任用した債権者らが、本件解雇または免職当時公労法第二条第二項の職員に該当するか否かを問題とすべきところ債権者らはその試用員任用の当初よりまたは試用員に任用された二か月後に公社法公労法上の職員たるの身分を取得したことはすでに判断したとおりであるから、右債務者の意思表示の有無を論ずる余地はないものといわなければならない。

(6)  職員たるがためには、その予算措置の裏附けがない限り不可能である旨の債務者の主張に対する判断

債務者の職員に対して支給する給与の総額は、予め国会の議決を経なければならないことは公社法第四一条第四三条第四八条等に規定されているが、その職員の定義を規定した公社法第二十八条には「この法律において公社の職員とは、公労法第二条第二項に規定する者をいう」と規定し、公労法第二条第二項には「この法律において職員とは左に掲げる者をいう」とし、その第一号に「前項第一号の公共企業体に常時勤務する者であつて、役員及び二か月以内の期間を定めて雇用される者以外のもの」と規定し、債務者の職員を、その雇用関係の側面から規定するだけであつて、債務者公社の予算の面からは、何らの規制もなく、又債務者公社の定める職員の定員なるものは、公社法によつてその職員に対する給与総額の制限を受ける関係から、これを債務者公社の各機関に分配する基準として債務者公社が定めた配置要員の人数に過ぎないことは債務者自らの主張するところである。従つて予算措置を伴う定員配置がないということを理由に職員の定義をまげて、債権者らを債務者の職員でないということはできない。

三、以上認定のとおりとすれば、本件債務者の免職或は解雇予告がなされた昭和二十九年七月三十一日当時すでに債務者の職員であつた債権者らを免職解雇しようとするには債務者において公社法第三一条、職就規第四五条に依拠してしなければなかつたにもかかわらず、債務者は準職就規第二一条に基いてこれをなしたのであるから、債権者らに対する本件免職解雇は債権者その余の主張について判断するまでもなく違法、無効のものである。

四、債務者の無効行為の転換に関する主張に対する判断

債権者真崎登、同後藤修司、同村田恒夫に対する債務者の免職理由が、同債権者らが職務に必要な適格性を欠いていたことを理由とするものであり、右免職の根拠とした準職就規第二一条第三号と同様の条項が職員に適用さるべき公社法第三一条第三号、職就規第四五条にも規定されていることはいずれも当事者間に争なく、右各条項によつて要求されている適格性は、試用員の職務たると職員の職務たるとによつて大差はないものと解される。元来無効行為の転換とは、意思表示が、その必要要件を欠き無効にして当事者の企図した法律効果を生じない場合に、その意思表示が他の法律効果を生ずる要件を備えるときは、右両法律効果が、その社会的目的を同じくする以上、前の無効な行為を転換して、後の効果を生ぜしめようとするものであつて、これを本件についてみるに、債務者の右債権者らに対する免職の意思表示が、試用員としての免職の効果は生じないが、職員としての免職の効果を生じさせてもよいように考えられるけれども、公労法が職員については争議行為を禁止する反面、本件の如き免職を含む職員の処遇を団体交渉の対象として認め、更に苦情処理又は紛争調停の機関を設けて、その身分を保障しており、成立に争のない甲第一号証の三、同第二号証の四、同第三号証の四によれば、右債権者らは、いずれも昭和二十九年八月三十一日附苦情解決請求書を、債務者公社の苦情処理共同調整会議に提出して、本件免職につき苦情解決の請求をしようとしたが結局は右書面を提出しなかつたものと一応認められる。而して、右請求書を提出しなかつたのは、前記乙第一号証(丸尾音治郎作成調書)によつて一応認められるように、債務者公社としては、右債権者らは公労法上の職員ではないから苦情処理の請求には応じられないとの見解をとつていたためであると一応認められ、公労法第一条第二項の趣旨から、債権者らが苦情解決の請求をしようとするときは、債務者公社も苦情処理の場で友好的解決を図るように最大限の努力をしなければならないものであるのに、債務者においてかかる請求に取り合わない態度を示しながら右の如き主張をなすことは不当であり、職員としての懲戒処分には免職以外に尚四種の処分があり(成立に争のない乙第十六号証の一、第五〇条)債権者がこれらの処分に該当するものとされる余地がある点からしても債務者の「債権者らが仮りに職員であつたとしても、その免職は有効である」とする主張は採用できない。

債権者浦西栄一、同番場達哉、及び同倉田泰子に対しては、同債権者らが肺結核に罹患していたため、準職就規第二一条第二号に該当し、直に免職すべきところ、右債権者らの事情を参酌して、解雇予告をしたものであることは債務者の主張するところであり、公社法第三一条第二号、職就規第四五条第二号後段にも、右準職就規第二一条第二号と同様な規定のあることは当事者間に争のないところであるけれども、職員に適用される職就規第四五条第二号後段の規定は、その前段と対比して考えるときは、準職就規第二一条第二号の適用範囲とは格段に狭く、同号前段の休職を考慮する余地のない心身の故障の場合のみと考えられ、右債権者らの健康状態が債務者主張のとおりであつたにしても、休職を顧慮できない程心身に故障があるとは云い難く、職員であれば、まず職就規第四六条により休職処分にした上、その休職期間が経過しても、なお心身の故障が消滅しないとき始めて職就規第四五条第二号前段により免職できるのであるから、結核性疾患を理由とする免職については、試用員と職員とは、全く、その適用規定を異にしているものと云うべく、両者が全く同一の規定であることを前提とした債務者の主張は、この点において既に理由がない。

五、被保全権利と仮処分の必要性

以上のとおりで、債務者の債権者らに対する本件免職、解雇は、いずれも無効であり、債権者らは尚債務者公社の職員たる地位を保有するものであるから、債務者は、債権者らを、債務者の職員として取扱わなければならず、債権者らの月額平均賃金が別紙第一目録記載のとおりであることは当事者間に争のないところであるから、債権者らは依然として債務者に対し別紙第二目録B欄記載の月額賃料請求権を有するものである。而して債権者らが給与生活者として賃金の支払を久しい間受けられないため生活不安を招来していることも容易に推察され、仮処分によりこれが救済を求める必要性のあることも認められる。

ところで債務者は毎月遅くとも二四日までに、その月分の給料を支給することになつている(債務者職員給与規程第十条)から、(この点は債務者において明らかに争わざるところである)債務者は、債権者らに対し、債権者らの債務者に対する解雇無効確認等の訴訟の本案判決確定に至るまで、債権者らを債務者の職員として取扱い、且つ債権者らに対し、債権者真崎登、同後藤修司及び同村田恒夫に対しては昭和二十九年八月分より、債権者浦西栄一、同番場達哉及び同倉田泰子に対しては昭和二十九年九月分より、いずれも昭和三十年十二月分までの合計(債権者村田恒夫に対する分は既受理済の金一二、八七五円を控除)である別紙第二目録A欄記載の各金額及び昭和三十一年一月一日より毎月二四日限り別紙第二目録B欄記載各金額の支払を命じた仮処分は相当であるから、別紙第二目録記載、番場達也を番場達哉と訂正した上これを認可することにし訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宅間達彦 常安政夫 仙田富士夫)

(別紙省略)

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